高級感ある電気自動車(EV)として注目を集める「テスラ モデル S」。従来に比べ長い走行距離を特徴とするこのモデルを使ったハイヤーサービスが、東京都内で始まっている。日の丸リムジンの「ゼロリムジン」だ。

テスラ モデル S は、EV メーカーの気鋭、米国 Tesla Motors が投入した5ドアハッチバック。フル充電から約 500km の走行が可能なため、お客を乗せて長距離を行くハイヤーなどにも利用できる。


2014年9月の発売後、さっそく東京都を中心にハイヤー、タクシーを展開する日の丸リムジンが、このモデルを5台導入。現在はから「ゼロリムジン」として営業運転している。ちなみにゼロリムジンのゼロは、走行時の排気ガスなし、化石燃料消費なしの「ゼロエミッション」からとったものだそう。

えん乗り編集部は今回、実際にゼロリムジンに乗せてもらった。

ハイヤーの乗客として、テスラ モデル S を利用するのは、面白い体験だった。ドアを開けてもらって、車内に入ると、後部座席は当初想像していたよりも広い。

後部座席は意外と広かった
後部座席は意外と広かった

乗り込んですぐ、クルマはなめらかに加速を始め、静かに、穏やかに、そしてやすやすと入り組んだ東京の街を滑り抜けていく。およそ、広い米国生まれ、しかも本来はスポーツカー好きを意識して開発された車種だとは、とうてい信じられないほどだ。

もちろん後部座席に乗る身としては、ゆったりした雰囲気は好ましい。1月中旬のこの日は天気にめぐまれ、パノラミックルーフごしに青空を見上げていると、とてものんびりした気持ちになってくる。

これはクルマを停めてルーフを開けてもらったところ。春からいいかも
これはクルマを停めてルーフを開けてもらったところ。春からいいかも

しばらくして海のそばまで来たところで、いったん降車し、あらためてゼロリムジンを撮影させてもらた。ぐるりと外側を眺めると、エクステリアなどに大きな変更はなく、控えめに日の丸リムジンのマークをあしらってある程度だ。テスラ モデル S のもともとのデザインを尊重しているようだ。

日の丸リムジンのマークをあしらってハイヤーと分かるデザインに。でも控えめです
日の丸リムジンのマークをあしらってハイヤーと分かるデザインに。でも控えめです

■成田と都内を結ぶハイヤーに

撮影がてら、色々とゼロリムジンの担当者の方に話を聞いた。

日の丸リムジンでは、ゼロリムジンを主に成田空港と都内を結ぶハイヤーとして運転している。海外からビジネスで日本を訪れる人の利用が多いそうだ。

同社はすでに都心で三菱自動車の EV「i-MiEV」を使ったタクシー「ゼロタクシー」も展開しているが、こちらは航続距離が短め。成田~都内を移動するには、もっとスタミナのあるテスラ モデル S の方が間違いがない。

またハイヤーとしての車格や高級感という意味でも、テスラ モデル S は合格だそうだ。

さらに、もっと直接的な長所として、成田~都内を走った場合の電気代がガソリン車の燃費より安く済むのが嬉しいそう。最近はガソリン価格も下がっているが、それでもまだ EV の方が低コストだという。

最近ガソリン料金も下がっているけれど、電気の方がまだ安くて助かるそう
最近ガソリン料金も下がっているけれど、電気の方がまだ安くて助かるそう

今後は海外から来た人だけでなく、国内でも利用を増やす方針。地方から来た人に東京のエコな側面を知ってもらうツアーなどを考えているという。例えばテスラ モデル S はトランクがかなり広いため、そこに自転車を積んで、乗客と一緒に都内でサイクリングに最適なコースへ移動。コースの入り口で、いったん降車してもらい、コースの終わりでまた落ち合う、といったアイデアを温めている。

成田空港で乗客の荷物を積み込む際に、苦労したことがないため、テスラ モデル S のトランクの広さには自信を持つようになったとか。

空港から乗ってくるお客さんのためにトランクの広さは重要
空港から乗ってくるお客さんのためにトランクの広さは重要

何度も荷物を載せて自信ができたそう。自転車を載せたハイヤー版「輪行」も検討中
何度も荷物を載せて自信ができたそう。自転車を載せたハイヤー版「輪行」も検討中

■「EV 対 FCV」は意識せず、よいクルマはこだわらず使う

日の丸リムジンとしては、テスラ モデル S をとても気に入っているようだった。EV の乗り心地のよさ、コストの低さ、そして将来性に信頼を寄せており、今後は東京オリンピックの開催される2020年をめどに100台規模で保有車両を EV 化したい考えだ。

とはいえ、ハイヤー・タクシー会社としては、特に EV だけを強く推しているという訳ではないそう。同社はゼロタクシーやゼロリムジンを導入する以前から、ハイブリッド車も積極的に採用している。最近は EV と対立軸で語られることもある燃料電池車(FCV)も、よいクルマでありさえすれば、こだわりなく導入したい考えだ。

トヨタ自動車の「MIRAI」については、車格が小さめなのと、まだ水素補充ステーションの数が少ないことが懸念材料だが、すでに導入の検討はしたそう。ただ、MIRAI は予約注文がとても多く入っているため、まだ購入できるめどが立っていないと、日の丸リムジンの担当者は残念そうに話していた。

MIRAI の導入はまだお預け、日の丸リムジンの担当者はとても残念そうだった
MIRAI の導入はまだお預け、日の丸リムジンの担当者はとても残念そうだった