最近、クルマを運転していて、「楽しい!」と感じること、少なくなっていませんか?クルマに様々な機能が付いて便利になればなるほど、運転するワクワクや、機械をいじる楽しさが減って来ているような気がするのは筆者だけでしょうか?

そんな筆者をワクワクさせてくれたクルマが、トヨタ「KIKAI」。最新の技術を搭載しつつも、機械いじりの楽しさを持ったコンセプトカーです。


トヨタのコンセプトカー「KIKAI」
トヨタのコンセプトカー「KIKAI」

「KIKAI」は、アナログ感に溢れたクルマ。裏ではハイテクが使われていたりもするのですが、表面的には人間の直感に訴えかけるインターフェイスが採用されています。たとえばナビシステム。いまどきのクルマに搭載されているナビはカラー液晶上に地図が表示され、地図上に行き先までのルートが示されます。その他、渋滞情報や到着予測時刻など、情報満載ですよね。

「KIKAI」のナビは一味違います。スクリーン…というか“メーター”に表示されるのは、大きな赤い矢印一本。それが次にハンドルを切る方向を教えてくれるのです。矢印の右隣りにはくねくねと曲がる一本の線。これは今後のルートを示します。交差点の名前など、細かいことはまったくわかりませんが、「次の角を左で、その次が右だな」という、もっとも重要な情報は届きます。

矢印左のブタが何を示しているかは謎です…。
矢印左のブタが何を示しているかは謎です…。

もしかしたら、このナビではちょっとだけ道に迷ってしまうかも。待ち合わせの場所に向かうときに使ったら、約束の時間にはちょっとだけ遅れてしまうかもしれません。でも、“だったらその分、早く家を出ればいいんじゃない?”と、そんな気分にさせるナビです。

続いて紹介したいのが、運転席足元にある小窓と、ドアの中央部に取り付けられた窓です。足元の小窓は、すでに多くのメディアに取り上げられている通り、サスペンションの動きなどをドライバーやパッセンジャーに見せるためのもの。でもそれだけではありません。

足元の小窓  ゆっくり走っていても、スピード感を楽しめるという効果もあるそうです
足元の小窓
ゆっくり走っていても、スピード感を楽しめるという効果もあるそうです

窓を多く設置することで、クルマの外の状況を、モニター越しではなく、自分の目で確認可能にしているのです。例えば駐車するとき、ドアに設置された窓で駐車スペースの白いラインを確認すれば、ドアを開けて外を覗かなくてもスムーズに駐車できます。

ドアの窓も、視認性向上に一役買っています
ドアの窓も、視認性向上に一役買っています

最近のクルマにはカメラが搭載されていて、モニターで車両の後ろを見えるものが多くなっています。KIKAIに取り付けられた窓にはカメラほどの視認性はありませんが、安全性と利便性を高めてくれるはずです。何より、自分の目で確認できるという安心感があります。

ミラーでも駐車スペースのラインを視認できます
ミラーでも駐車スペースのラインを視認できます

足元の小窓は実は調光ガラス。スイッチひとつで「スモーク」モードに切り替えられます。例えば女性ドライバーがハンドルを持っているとき、「今日の靴、街を歩いている人たちに見られたくないな」と思ったとしましょう。そんなときには、スモークに切り替えて、プライバシー(?)を保護できます。

スイッチ一つでスモークガラスに!  KIKAIは昔のクルマ風ですが、実はハイテク満載です
スイッチ一つでスモークガラスに!
KIKAIは昔のクルマ風ですが、実はハイテク満載です

筆者が個人的に最も気に入ったのは、ドライバーズシートが真ん中に配置されたシートアレンジ。トヨタさんによれば、ドライバーシートを右や左に寄せてしまうのは、機械的にはあまり良くないことなのだとか。ホイールの中央にハンドルやブレーキを配置することで、無理のない、理想的な操作が可能になるそうです。

ドライバーズシートが真ん中に配置されたシートアレンジ  20世紀初頭のクルマみたいですね  馬車を御す「御者」のイメージでしょうか?
ドライバーズシートが真ん中に配置されたシートアレンジ
20世紀初頭のクルマみたいですね
馬車を御す「御者」のイメージでしょうか?

そしてこのシートアレンジは、「前部座席」「後部座席」という既成概念を壊します。ある意味、すべてが前部座席。ドライバーの見ている景色とパッセンジャーの見ている景色は、ほぼ同じなのです。

子どもたちはある程度の年齢になったら、後部座席に閉じこもりがち。そしてそこでゲームなどをやり続けがちです。でももしかしたらKIKAIに乗れば、ゲームをしなくなるかも。前部座席と同じ景色が楽しめるKIKAIなら、ちょっと暗い一般的なクルマの後部座席より、移動が楽しくなるからです。

後部座席からの眺め  前席とほぼ一緒です
後部座席からの眺め
前席とほぼ一緒です

「そんなにうまくいくもんかね?」と思われる方、電車の一番前の車両に行ってみてください。わずかな隙間から電車の前方を見ている子どもたち、意外とたくさん存在します。つまらない電車の移動時間も、前が見えれば楽しい。その感じが、KIKAIにはあります。

その他、KIKAIではあちこちにレトロ感溢れるデザインが導入されています。ドライバーズシート左には、あえてアナログの時計。文字盤が大きく、メーターっぽいデザインのものが取り付けられています。その下の燃料計もアナログ。正確な量がわかるかと言われれば疑問ですが、直感的に残りの燃料が判断できそう。もし判断を誤ったら、クルマを揺らせば、またしばらく走りそう?そんな気持ちにさせるデザインです。

懐かしポイントその1:アナログ時計と燃料計!
懐かしポイントその1:アナログ時計と燃料計!

パーキングブレーキなどは、一見チョークのよう。このあたりも「懐かしい!」と感じる人が多いのでは?

懐かしいポイントその2:チョークみたいなパーキングブレーキ  寒い日の朝、うっかり引いてしまいそうです
懐かしいポイントその2:チョークみたいなパーキングブレーキ
寒い日の朝、うっかり引いてしまいそうです

筆者が初めて勤めた会社の社長はクルマを所有せず、いつもタクシーを利用していました。理由を尋ねたところ、次のような答えが。

「タクシーをいくら使っても、年に100万円はかからない。でも、クルマを持っていると、100万円以上使うことがある。だったら、タクシーでしょ?」

その通りだと思います。そしてこの社長のような人は、自動運転が一般化したら喜ぶでしょう。ある意味、自動運転車は、道を間違えず、渋滞を避けて最短のルートを選んでくれるタクシーだからです。

また、自動運転が素晴らしい技術であるのも事実。例えば知らない土地に旅行してレンタカーを借りたとき、それが自動運転車だったら、運転に神経を使わずに旅行だけを楽しめます。電車やバスと違って、時間に縛られないというメリットも。

でも、普段はそうじゃないはず。僕たちはもっと、機械をいじるように、クルマを運転したいはずなのです。

そんな思いにこたえてくれたのがKIKAI。先進技術を使いつつ、機械を操る楽しさを残しておいてくれたクルマです。

機械、むき出し!  でも、美しい!
機械、むき出し!
でも、美しい!

あくまでもKIKAIはコンセプトモデル。実際に販売されることになれば、これほどのむき出し感は消えてしまうでしょう。例えばこのままだと、ウォッシャー液などは盗み放題です。でも、機械を操る楽しさの部分だけは残しておいて欲しい。「コンクリート打ちっぱなしが美しいなら、機械むき出しだって美しいよね?」。KIKAIは、そんな気持ちにさせてくれるコンセプトモデルだからです。

いろいろ、盗み放題です
いろいろ、盗み放題です

でも、美しい!
でも、美しい!