メキシコにはかつて、20,000キロを越す大規模な鉄道網が存在していた。だが、1995年の国鉄民営化後、ほとんどの路線が廃止されてしまう。そして、廃線からおよそ20年立った現在では、19世紀から長年かけて張り巡らされてきたメキシコの鉄道網は、その痕跡さえもが失われつつあるという。


アーチストの Ivan Puig 氏と Andres Padilla Domene 氏は、廃線跡が完全に失われてしまう前にその景色を記録するべきと考えて、廃線跡をたどる旅を立案。旅を実現させるために、鉄道の線路上を走行可能な自動車「SEFT-1」を製作した。


鉄道の線路上を走行可能な「SEFT-1」
鉄道の線路上を走行可能な「SEFT-1」

「SEFT-1」は、“手作り”に近い自動車。デザインや細部はいかにも素人っぽい仕上がりだ。だがその内部には現代的なセンサーやナビゲーションシステムが取り付けられており、撤去後の路線跡も正確に辿ることが可能なハイテクマシンとなっている。

内部には廃線跡をたどるためのハイテク設備が搭載されており
内部には廃線跡をたどるためのハイテク設備が搭載されており

線路上だけでなく
線路上だけでなく

線路が撤去されてしまった廃線跡も辿れる
線路が撤去されてしまった廃線跡も辿れる

両氏は「SEFT-1」に乗り、2年かけてかけてメキシコとエクアドルの廃線跡を走破。その数千マイルにもおよぶ旅の模様を、写真と動画で記録した。

現在は歩行者用の橋として利用されている鉄道橋
現在は歩行者用の橋として利用されている鉄道橋

新たに作られた道路で寸断された線路
新たに作られた道路で寸断された線路

記録された写真や動画は、廃線マニアには垂涎の的となるものばかり。また、廃線によって影響を受けたローカルコミュニティのインタビューも記録されており、学術的にも高い価値を持っているそうだ。

かつてのトンネル跡や
かつてのトンネル跡や

鉄道橋跡など、廃線マニアの心をくすぐる画像が記録されている
鉄道橋跡など、廃線マニアの心をくすぐる画像が記録されている

映像を見た廃墟探検家の Jonathan Jones 氏は次のように述べている。

「彼らが撮影した写真は、人間が造りだした世界が打ち捨てられ、ジャングルや森へと戻っていく、ディストピア的な未来を映し出している」

写真には、100年近くもの間、多くの列車が走行していた線路が
写真には、100年近くもの間、多くの列車が走行していた線路が

廃線後、わずか20年足らずでジャングルに戻っていく様子が映されている
廃線後、わずか20年足らずでジャングルに戻っていく様子が映されている

両氏の撮影した写真と動画は現在、英国ロンドンの Furtherfield Gallery で公開されている。公開期間は、6月21日から7月27日まで。日本からは展示を見に行くことはちょっと困難そうだが、両氏はその一部を Vimeo で公開している。3分あまりのこの映像を見ると、廃線20年弱で鉄道のあった痕跡がこれだけ消えてしまうものかと驚く。


廃線を走る自動車「SEFT-1」