JR 大阪駅前には「この世でもっとも美しい時計」の1つがある。別に地元が身びいきで言っているのではない。米国を代表するテレビ局の1つ CNN がそう呼んだのだ。そしてそれは、「水」でできている。

流れ落ちる水が時を告げる
流れ落ちる水が時を告げる

■「水」でできた時計に世界が注目


駅ビル「大阪ステーションシティ」南ゲート広場にある「水の時計」。針も文字盤も液晶もないこの時計は、落下する水によって数字や文字をかたちづくり、時刻を告げるとともにさまざまな絵や模様を描き出す、魔法のような装置だ。


CNN はこれを、2014年8月に、ロンドンの「ビッグベン」や、モスクワの「クレムリン宮殿」の時計塔とともに「世界で最も美しい12の時計」に選んだ。歴史や伝統を感じさせるクラシックな時計の数々に、1つだけ混じったハイテク機器は異彩を放った。

水の時計は、もともと海外から日本に来る旅人のあいだでは関心の的で、YouTube などに幾つも動画の投稿があったが、これを機にさらに認知度が向上。日本でもあらためて注目が集まり、国内のマスメディアやニュースサイトなども盛んに話題にするようになった。

■大阪の噴水メーカーが見せた技術の粋

時計を管理する大阪ターミナルビルによると、この時計を設置したのは2011年の駅ビルオープンの時。ビルの各広場に「水」「緑」「時」「エコ」というテーマで時計を置こうと考え、その1つとして水の時計を考案した。

はじめは普通の噴水を改良して、時を告げる仕掛けも考えたが、大量の水を使うのではエコとは言えない。そこで、美しさと環境性能の両立を図って白羽の矢を立てたのが、大阪の噴水メーカー、光栄の「Space Printer(スペースプリンター)」技術。

水の糸を無数に並べ、1本1本を個別に制御して、空間に文字や模様を描き出すというものだ。操作は PC から行うことができ、好きな図柄を文字通りプリンターのように浮かび上がらせられる。水を循環させながら効率よく使えるため、エコの観点にもかなう。

■10か国語で「ようこそ」

ここまでは裏方の話。水の時計の目的は、通りがかった旅人にあれこれ堅苦しく考えさせるではなく、まずは楽しんでもらうこと。

そして新しい仕掛けも色々と用意している。例えば3月末からは表示を変更し、「おもてなし」の一環として時報や季節の絵柄のほかに、さまざまな国の言葉で「ようこそ」と伝えるようになった。

英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、タイ語に加え、ドイツ語、フランス語、ベトナム語、インドネシア語 (マレー語)、それにもちろん日本語でも表示する。

海外からの旅人が、各広場の時計を巡るためのツアーもあり、「clock tour」という英語のチラシも用意している。

英語で各広場の時計を紹介
英語で各広場の時計を紹介

■近鉄京都駅にも「水景」

ところで、水の時計と同じ、Space Printer を採用したオブジェはほかにもある。

2008年、2009年にキャナルシティ福岡で登場した「水のカーテン」や、2008年に刷新した近畿日本鉄道の京都駅高架線下店舗「みやこみち」にある「水景」だ。

「みやこみち」の「水景」
「みやこみち」の「水景」

みやこみちの水景は、正面入口から最も遠いところにある。このあたりに人がふと足を止めて一息つけるような仕組みとして置いたものだ。登場から5年以上が経過した今は、多くの観光客が立ち止まって写真をとるスポットとして定着しているそう。

また外国からの旅人にも好評で、みやこみちの施設開発者はそれを嬉しく思っているだとか。

■ロシアにも進出、ドバイからも問い合わせ

なお、水の時計や水景を開発した光栄は、ロシアからの注文を受け、カリーニングラードという都市にある「Akropol Trade Center」にも水のオブジェを作っている。その水のオブジェが「キリル文字」を次々に描き出すようすは日本のそれとはまた違った面白さがある。


また CNN が水の時計を取り上げてからは光栄への海外からの問い合わせが増えているそうで、最近は中東のドバイなどから相談があったとか。確かに乾燥した土地では、限られた水を循環させながら豪華なオブジェを作り出せる技術は魅力があるだろう。光栄の担当者は、海外展開について「もちろん、国内だろうと国外だろうと注文があれば応じますよ。うちはメーカーですから」と淡々と話していた。

観光に力を入れる日本。今後、海外から大阪や京都を訪れた人の口コミが広がれば、さらに多くの国から注目を集める可能性がある。そうなるといつか日本の旅人が、渡航した先で大阪発の水の時計に出会う日も来るかもしれない。