数年前、ニワトリの絵を正しく描けない子どもが増えていることが話題になった。3本足や4本足のニワトリを描いてしまう子どもが存在するというのだ。そしてその原因は、子どもたちがニワトリを見る機会が減ったためではないか、とされている。

では、自転車ならどうだろう?ニワトリを見る機会が減った都会に住む人でも、自転車は毎日目にしているはずだ。ニワトリが描けない人も、自転車なら正しく描けるのではないだろうか?

イタリアのデザイナーGianluca Giminiさんは2009年から現在まで、友だちや見知らぬ人に、記憶だけを頼りに自転車の絵を描くよう依頼。3歳から88歳までの376人が描いた自転車のスケッチを収集した。その結果、子どもであっても大人であっても、自転車を正しく描ける人は多くはいないことを明らかにしている。

正しくない自転車のスケッチの例
正しくない自転車のスケッチの例

自転車にはタイヤが2つあり、シートとハンドルが付いている。これについては、多くの人が正しく認識し、絵に描けている。だがペダルとクランクがフレームのどこに取り付けられ、どのように支えられているのかを把握し、絵に描けた人は少なかったそうだ。中には、チェーンが前輪と後輪のどちらに力を伝えているかをわかっていない人もいたという。

チェーンが前輪にパワーを伝えてしまっている例
チェーンが前輪にパワーを伝えてしまっている例

Giminiさんは、スケッチの何枚かをCG化。そのスケッチ通りに自転車を製造したら、どのようなものになるか、分かりやすく示している。ここではそのうちのいくつかを紹介しよう。

◆Rosalbaさんのスケッチ ― チェーンが前輪に?
Rosalbaさん(57歳)の自転車は前輪駆動。これがうまく機能すれば、クルマ同様、後輪駆動よりも安定した走りができるかもしれない。特に、スリップしやすい道で力を発揮するだろう。だが残念だが、この自転車は曲がれない。上下2か所に取り付けらたフォークのうち、下のフォークが前輪の動きをがっちりガードしているからだ。

Rosalbaさんのスケッチ  前だけを向いて、前だけに進むSMAPのような?
Rosalbaさんのスケッチ
前だけを向いて、前だけに進むSMAPのような?

◆Alessandroさんのスケッチ ― チェーンは前後輪に直結
Alessandroさん(30歳)の自転車は、ペダルパワーが前後輪に伝わる“2輪駆動”。ファットタイヤが装備されていることもあり、一見、悪路に強いオフロード車のようだ。だがこの自転車には、前後輪の回転差を吸収するデフが存在しない。このため、カーブを曲がるには、かなり苦労すると考えられる。

Alessandroさんのスケッチ  一見、全輪駆動のオフロード車風
Alessandroさんのスケッチ
一見、全輪駆動のオフロード車風

もっとも、右にハンドルを切ると前輪のチェーンが外れてしまうし、左にハンドルを切ろうとすればタイヤとチェーンが接触してしまうので、この自転車はそもそもカーブで曲がることはできない。そう考えると、デフはなくても良いのかもしれない?

◆Annaさんのスケッチ ― どう乗れば良い??
Annaさん(24歳、学生)の描く自転車は、後輪の真上にサドルが取り付けられている。このため、ペダルに足をかけると、リカンベントトライクに乗ったときのように、寝そべった姿勢にならざるを得ない。

だが、ハンドルははるか前方に位置している。このハンドルを掴むには、“寝そべりながら前傾姿勢”という、人類の身体の作りを無視した体勢を取ることになる。

Annaさんのスケッチ  中国雑技団並みの柔軟性が必要
Annaさんのスケッチ
中国雑技団並みの柔軟性が必要

ペダルやスプロケットは、サドルからのびたポールの先端に取り付けられた。これはデザインとしては面白いが、強度不足は否めない。ペダルを漕ぐたびにポールは上下し、やがて折れてしまうだろう。

◆Leonardoさんのスケッチ ― ダイヤモンドフレームの前半分?
Leonardoさん(19歳、学生)の描く自転車は惜しい。ペダルもスプロケットもチェーンも描かれていないので完成度が低そうに見えるが、ダイヤモンドフレームの前半分については正しく描画しているのだ。

惜しむらくは、ペダルの取り付けられるべき場所に、後輪を付けてしまったこと。このため、ペダルを取り付けられなくなってしまった。

Leonardoさんのスケッチ  そこはタイヤの場所じゃない!
Leonardoさんのスケッチ
そこはタイヤの場所じゃない!

Leonardoさんはきっと、この自転車を描きながら「なぜ、ペダルを取り付ける場所が無い?」と頭をひねったはずだ。

結果、ペダルの無い“足蹴り自転車”と化してしまったLeonardoさんのスケッチ。悪いことに、サドルが後輪の中心より後ろに取り付けられている。このサドルに腰かけて足で地面を蹴れば、搭乗者は後ろに倒れ、頭を打って怪我をするだろう。返す返すも残念なスケッチだ。

足蹴り自転車なのに、足で地面を蹴ると危ないという矛盾
足蹴り自転車なのに、足で地面を蹴ると危ないという矛盾

さて、Giminiさんはこれらのスケッチについて、「人間の脳が、本当はよく知らないことについても、自分は知っていると“騙す”ことがある」ことを示す好例であるとしている。

なるほどと思うと同時に、これらの間違ったイメージが、他の人の脳に与える影響力のすさまじさも感じる。他人の“記憶の中の自転車”を見続けていると、自分の記憶の中の自転車像が狂いはじめてしまうのだ。実際、ここまでのCGを見て、ペダルが自転車のどの位置にどのように固定されているか思い出せなくなった人もいるのではないだろうか?筆者も、もしいま自転車の絵を描けと言われたら、正しく描ける自信が持てない。

Giminiさんは自身のWebサイトで、スケッチを50枚、CGを12枚公開している。興味のある方は、さらなるカオスを探訪して見るのも、悪くないかもしれない。